新潟市秋葉区の「株式会社日園」。日本のチューリップ球根営利栽培発祥の地で、70年以上に渡り、球根類・宿根草・花木の生産、卸販売を行っています。1,000種類以上の植物を取り扱い、これまで卸取引をメインに事業展開してきました。「卸取引だけでなく、消費者の方へ直接届けられる商品を作りたい」というご相談を受け、新潟直送計画への出店に合わせネーミング・パッケージデザインをご依頼いただきました。
商品開発を進めていく過程での手応えや実感について、代表の片岡信義様にお話をお伺いしました。
株式会社日園 代表取締役 片岡信義 様
新潟市秋葉区(旧新津市)出身。大学を卒業後、株式会社日園(当時は日本園芸株式会社)に入社。父が専務を務めていたので小さい頃から手伝いをしており、入社当初から事業に精通し、周囲から頼られる存在だったという。2014年に社長に就任。「より多くの人が花を生活に取り入れて、癒やされるきっかけを作りたい」という思いから、インテリアで気軽に育てられる「水耕栽培球根」の開発に力を入れてきた。
担当スタッフ
デザイナー:星山充子
アカウントプランナー:一木幸之佑
卸取引のみのビジネスモデルから脱却し、BtoCの販売を強化しようと、商品開発に着手。
ー ご依頼のきっかけは?
片岡(日園代表):日園は球根類や宿根草・花木の卸会社で、実店舗は持っていません。BtoBの卸販売しか行ったことがなく、一般消費者向けのアピールはほとんど卸先が行っていて、私たちはノータッチでした。しかし時代の流れを感じ、今後は自社商品を強化して、一般消費者向けにネット通販をやっていきたいと考えていました。新潟直送計画に出店している知り合いから「他の通販サービスよりも、アフターフォローが手厚く親切だよ」と評判を聞いて、出店を決めたんです。
一木(アカウントプランナー):ありがとうございます。でも、出品しようとされていた商品に、肝心の「商品名」が無かったんですよね。
片岡:水だけで育てられる球根で、「花芽付き球根」という名前だったね(笑)。パッケージも何もなくて、卸販売用の茶色い段ボールしか手元になかったね。
星山(デザイナー):母の日向けの商品として、通販カタログに「花芽付き球根」を掲載してみる取り組みをされていたんですよね。カタログの誌面を見せていただいたのですが、「母の日に!」「水だけで育てられる!」と言った「機能」の部分を全面に押し出していて、球根や花が持つ可憐で美しい空気感が表現できていない状態でした。
一木:片岡さんから通販カタログの誌面を見せていただいた時に、正直「うーーん」と悩んでしまって。売り上げも芳しくなかったんですよね。
星山:でも、商品自体にすごく魅力があるなと見た瞬間に感じました。水耕栽培の球根は水の交換だけで育てられて匂いも全くなく、部屋の中でお花を咲かせることができます。球根が水だけで花を咲かせるなんて、知らなかったので驚きでした。
インテリアを気軽に彩りたい若い方々に需要があると思いましたし、特に「ムスカリ」はまるでフルーツのように、フレッシュでいい香りがするんです。玄関に置いたら最高だな、ギフトにも最適だなと感じました。
寒い冬に、春の花を部屋にいながら楽しめるというのも、素敵なポイントですよね。春を待ちわびる気持ちが一層膨らみます。当時は、こういった魅力が手に取る人に伝わっていない状態だったんです。
球根が水に浮かぶ様子から、商品のネーミングやデザインを膨らませました。
ー どのように案件を進行しましたか?
星山:まっさらな状態から商品企画をする際に、最も重要なのはデザイナーがデザインする前段階の「コンセプト設計」です。誰が、どんな時に欲しいと思ってくれるのか。使用シーンを幾つも洗い出し、ターゲットとなる顧客イメージを明確にします。その上で、商品の本質や魅力がパッと見ただけで「伝わってしまう」ような、ネーミングやストーリーを丁寧に紡ぎ出していきます。
一木:今回最も力を入れたのが、その「コンセプト設計」のもとになる調査です。社内外で可能な限り年齢や家族構成の違う人に話を聞き、「どんな時にこの商品を購入したいと思うか?」を聞いていきました。出てきた答えを整理すると、「気持ちを明るくしたい時」「育てる植物は、切り花よりも気持ちが入る。大切な人に贈りたい」「パッケージが可愛ければギフトに使いたい」と言った意見が多く見られました。
星山:調査の結果を考慮しながら、水に「浮かぶ」球根であるということをコアコンセプトとしながら、商品のネーミングを考えました。いろんなシーンに、「浮かぶ」を「プラス」できるように。「+float」というネーミングをご提案しました。
片岡:商品名一つをとってみてもよく考えられていますよね。感心しました。
一木:10個20個とアイディアを書き出し、商品が持ち合わせている温度感にぴったりと合っているか?を合言葉に、一つ一つ検証しながら組み立てていったんです。
片岡:意味もいいし、俺だったらそんなこと思いつかないよ(笑)。
ギフトにできる華やかさと、デリケートな球根を守る構造。デザインと機能を両立したパッケージに。
ー 制作時にこだわったポイントは?
片岡:最初の私たちのイメージは、「薄めの色でふんわりと可愛らしいデザイン」だったので、そのようにオーダーしました。若い女性が好きそうなのって、柔らかくてふんわりしたデザインでしょ?というイメージがあったんですよね。
一木:デザインのイメージを最初に持たれているパートナー様は多くいらっしゃいます。一念発起して商品開発をするので、よく考えますよね!でも私たちが心がけているのは、そのパートナー様のイメージを「正解」としてしまわないことです。デザインには必ず理由があります。最後に手に取る方、ギフトとしてこの商品を「もらった」方がどんな気持ちになれるかを想像し、今回たどり着いた答えは「ふんわり可愛らしい」から一歩ジャンプしたものでした。
星山:「+float」は、12月〜3月に室内で花を咲かせます。窓の外は寒々しい風景が広がっているはずです。冬が長い北欧では、景色に色がないので華やかな色や柄のファブリックをインテリアに取り入れて、暮らしにあたたかさをプラスするそうです。
星山:そこからヒントを得て、寒い風景を彩る「額縁と絵画」のような、心を明るくするデザインがいいとご提案しました。色を思い切って広い面で使ったデザインは、通販の画面でパッとみた時に目に飛び込んでくるので、直感的にギフトとして選びやすく、包装紙で巻かずにリボンをかけるだけでより華やかさを増します。
片岡:球根は呼吸しているから、箱を密閉することができない。穴を開けてほしいというオーダーを叶えながら、ここまで華やかに仕上がったので驚きました。新潟直送計画で販売を開始して、レビューにも「パッケージがかわいいですね」と反響が届いたね。
星山:配送時に中の花瓶がずれないように、箱の切れ込みを内側へ折り込む「ストッパー機能」を持たせました。今回、複数個を配送できる外箱段ボールの設計も同時に行いました。空気穴の位置は、外箱ダンボールの穴の位置と合わせてあって、二重構造で固定される安心設計になっています。
販売スタート時は「本当に売れるのか?」と心配。が、わずか1ヶ月の販売で、確かな手応えを実感。
ー 実際の反響はいかがでしたか?
片岡:「+float」が完成して、販売を開始したのは、2020年2月でした。球根は開花時期が12月~3月中旬なので、販売できたのは実質1ヶ月ほど。しかし「思ったより売れた」という印象です。当初は、良いものだと確信はありつつも安いものではないので、「売れるかな?」という心配も正直ありました。
一木:ギフトを購入したいと思って商品を探されている方は、「安いもの」を探していない場合が多いんです。「価格」と「商品から感じられる価値」がしっかりと一致するものが、通販での売り上げを伸ばしているというデータをお見せしました。新潟直送計画では、1000商品以上のラインナップを扱っているので、売れ筋商品の共通点を常に検証しています。価格設定もデータを参考にしながら、スタッフが一緒に考えているんです。
片岡:コロナ禍でお家で過ごす時間を快適にしたい、というニーズが増える中、次のシーズンを迎えます。たくさんの人の心を少しでも照らせる商品に育って欲しいし、しっかり4ヶ月販売した際の売上が楽しみです。
さらなるBtoC市場の開拓!そのための商品開発や知名度UPの施策を検討中です!
ー今後取り組みたいことを聞かせてください
片岡:今はホームセンターに卸していても、安定して継続的に販売できるかは分からない時代であり、価格競争もあります。だからこそ、BtoCの市場はさらに開拓したいと考えています。
星山:日園様は、今回の球根以外にも、BtoC向けに販売できる素敵な素材をたくさん持っていらっしゃいました。また新しい商品開発を一緒にしていけたら嬉しいです!
一木:私としては、日園様のある秋葉区と組んでガーデニング教室を開いたり、マルシェに出店したりするのも面白いのではと思います。
片岡:確かに。そういう風に人の目に触れることで、話題になり、何かのきっかけで購入につながるかもしれませんね。ネット通販も、花屋さんに行けない、もしくは行かない人に対して、検索すればすぐに表示されてオーダーできるアプローチの一つになっているわけですし。「+float」の自体が日園の宣伝ツールになるはずなので、色々と検討していきたいところです。