富貴堂は、新潟県燕市の伝統的工芸品「燕鎚起銅器」の製造技術を受け継ぐ、歴史ある工房です。1枚の銅板を金鎚で打ちのばしながら成形していく鍛金技術で、湯沸・急須・茶筒などの他にコーヒーポットやコーヒーサーバーの製造を行っています。
新潟直送計画への出店に伴って、ロゴデザインリニューアル・包装紙デザイン、リーフレット・ポスター・タペストリーデザイン、エプロンデザインなど、総合的なブランディング支援を担当させていただきました。
デザイン制作の過程で大きな気付きや喜びがあったという富貴堂の3代目に、制作物が出来上がった時の気持ちや、デザインリニューアル後の手応えについてお伺いしました。
有限会社富貴堂 代表取締役 藤井健 様
燕市出身。高校を卒業後、200年の歴史を持つ鎚起銅器の老舗「玉川堂」へ入社。修行として2年間勤めた後、家業の「富貴堂」へ入り、2020年7月現職に就任。先代から受け継ぐ「道具として使う銅器作り」の考えにこだわり、機能性と美しさを兼ね揃えた製品を手掛けている。
富貴堂のプロダクトは、普遍的な機能美を保ちながら、時代に合わせて新しいアイディアを柔軟に取り入れているのが特徴。器を絞って作る「打ち絞り」と、回転する銅板にへら棒を押し当てて成形加工する「へら絞り」の2つの技法で、より良い製品作りにチャレンジし続けている。「新潟直送計画」に出品している「珈琲ドリップポット」は、代表自ら商品開発し、コーヒーに精通している人たちからの意見を汲み上げ改良を重ねている最新作。
担当スタッフ
■デザイナー:星山充子
■アカウントプランナー:一木幸之佑
時代にそぐわないロゴのデザインを一新したくても、誰に相談していいか分からなかった。
ー ご依頼のきっかけは?
一木(アカウントプランナー):富貴堂様とのプロジェクトのきっかけは、地元信用金庫のご担当者様からのご紹介でした。以前から、デザインのリニューアルは考えていらっしゃったのでしょうか?
藤井(富貴堂代表): そうですね。新潟直送計画に出店する前から、包装紙をはじめとした、諸々のデザインを新しくしたいとは考えていました。
私たちが作る商品はリーズナブルなものではありません。だからこそ、「買ってよかった」「いいものだな」と思ってもらえるような、付加価値や丁寧さが必要だと感じていました。しかし、誰に相談したらいいのか全く分からない。そんな話を、信用金庫の担当にしたところ、ご紹介いただいたのが新潟直送計画だったんです。
藤井:長年使ってきた包装紙や3代受け継がれてきた「石うす」の紋に愛着はありましたが、珈琲ポットをはじめとしたプロダクトのデザインを研ぎ澄ましていくほどに、古めかしい紋や包装紙に違和感が出てきて。今までのイメージは捨てて、新しいロゴを作った方がいいのかな、と悩んでいました。
一木:当初は、「石うす」の紋を一旦なくして、新しいデザインを作ってほしいというご依頼でしたよね。ただ、藤井様から詳しくお話を伺ってみると、これまでに培ってきたブランドイメージや、受け継がれてきた「石うす」の紋に対する愛着もある中で、本当にこれを変えてしまっていいのかという迷いも感じました。
まずは方向性を固めていくための打ち合わせが必要だと思い、デザイナーと一緒に工房へ伺うことにしました。
予算も見据えた上で、バラバラなデザインの中から富貴堂らしさを抽出し、整えることに。
ー どのように案件を進行しましたか?
星山(デザイナー):今までは、決まったロゴや書体がなく、媒体によってバラバラなデザインを使用されていて、「富貴堂といえばこれ」というイメージがない状態でした。
しかし、一つずつの素材を紐解いていくと、先代から受け継がれてきた「石うす」の紋や、お父様手書きの「富貴堂」の筆文字、長年愛されてきた緑色のカラーリング・・・全てが、大切にしなければならない「デザインの原石」だと感じました。
今までのデザインを刷新したロゴを作るよりも、原石を磨いてロゴとして成立するように「仕上げる」作業だけで十分なのではないか、とご提案し、その場でイメージを作ってお見せするところからスタートしました。
藤井:星山さんや一木さんが、「せっかく素敵な紋なんだから、活かした方がいいですよ」と提案してくださった時は、嬉しかったです。愛着のあった従来の紋を、大きく形を変えずにイメージを時代に合わせ、私の代でも継承できるなんて、これほど嬉しいことはありません。
一木:「石うす」の紋は、何十年も前に先代が「石うすで粉を挽く様子のように丁寧な手仕事を」という思いを込めて作ったもの、というお話を聞いて、富貴堂様は変わらぬ理念で脈々とものづくりを繋いできているのだな、と感動しました。
今回、デザインを刷新するのではなく整えるだけで仕上げられたのは、石うすの紋に昔から変わらない想いが表現されていて、富貴堂様にブランド力と商品力が既に備わっていたからこそです。元となる魅力が存在しなければ、整えるだけでは成立しませんから。
星山:そして、新しいロゴを作ることに使おうとしていた大きな予算を、包装紙や封筒・エプロン・タペストリーなど、ツールのデザイン作成に充てることも提案させていただきましたね。
藤井:おかげで効率的に予算を使うことができました。アップデートした富貴堂らしさを、様々なツールにも落とし込めて、少しずつではありますが、ブランドのトーンが整ってきたなと実感しています。
完成したデザインに大満足。統一感のある包装紙やポスター、リーフレットなど続々展開。
ー 制作時にこだわったポイントは?
星山:ロゴの制作とともに行ったのが、ブランドカラーの策定です。 看板や内装のデザインを行うときにいつも気をつけているのが、「カラーでの認知」を意識することです。人は意外と「形」や「名前」でものを捉えておらず、「色」で認識している事も多いんです。富貴堂様の場合、たくさんの人が集う展示会で、見る人の印象に残るための施策が必要でした。
今までは包装紙などで「薄い若草色」を使用していて、高級な伝統工芸品と少し温度感が合っていないと感じました。初めて接点を持つ方にも「素敵な鎚起銅器を作っている、緑色の会社」と認識してもらえるように、高級感のある深い緑色をブランドカラーに策定しました。
藤井:包装紙は、今までの面影を残しつつ、商品の価格に見合うデザインに生まれ変わりました。また英語表記も入っているので、海外のお客様向けにもアップデートされています。他にタペストリー・ポスター、リーフレットも作ってもらいました。
富貴堂の商品は小さいので、展示会では目立たないんですよね。印象的なタペストリー・ポスターはアイキャッチになりますし、リーフレットは、足を運んでくれた方に気軽に渡せ、富貴堂や富貴堂の作る燕鎚起銅器を知ってもらうのに役立っています。
エプロンやさらりとした紙の風合いが良い封筒も、とても満足しています。新潟直送計画は「これをしたい!」を何でも相談できるパートナーですね。
新しいデザインでブランドのトーンを固められた今、更なる「富貴堂ブランド」の強化に力を入れたい。
ー 今後依頼したい制作物はありますか?
藤井:梱包用の箱や、商品を包む薄用紙、展示会用のディスプレイ台を変えていきたいですね。
今までは、全部自分でやれば費用がかからなくていい、と思っていました。しかし、今回様々なツールの制作をお任せしてみて、自分だけでは見えていなかった「顧客目線」で伝わるデザインを提案してもらうことに、とても大きな価値を感じました。
一木:ありがとうございます。富貴堂様の商品は、機械ではなく1つ1つ手作りなので、その丁寧さや、心遣いのようなものを、今後もデザインに落とし込めていけたらと思います。
星山:今回作成したロゴ・ブランドカラーをベースに、商品パッケージや販促物デザインのトーンも整えていくと、更にブランドとしての強さ・重厚感が醸成されていくと思います。新潟直送計画での販売施策もあわせて、富貴堂ブランドを一緒に育て続けていきたいですね。